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キーマンインタビュー

最初は"朗読少年"になるはずだった!?─iPhoneアプリ『朗読執事』誕生秘話

大澤昌弘 2011/05/18

女子高生キャラクターの"乙葉しおり"が文学作品を朗読してくれるiPhoneアプリ『朗読少女』(iPad互換)。すでに50万ダウンロードを達成した大ヒットアプリだが、このほど『朗読少女』に続く第2弾アプリがオトバンクからリリースされた。女子高生の次なる主役はイケメン"執事"。どういう経緯でどのようにアプリが作られたのか。『朗読執事』を企画したオトバンクの上田渉社長に話を聞いた。

上田渉(うえだ わたる)東京大学経済学部経営学科中退。複数のNPO・IT企業の立ち上げ・運営を経験。2004年にオーディオブックの制作販売を行うオトバンクを創業し、代表取締役に就任。出版業界の活性化を目指し、オーディオブックを文化として浸透させるべく日々奔走中

当初は"朗読少年"になるはずだった!?

──『朗読執事』を出そうと思ったきっかけと経緯について教えてください。

『朗読少女』のリリース後、男性の声で朗読を聴きたいという声をメールやTwitterでたくさんいただきまして、それで男性版を検討しようということになったのが、そもそものはじまりです。

──男性の朗読を望む女性を想定して出したアプリなのでしょうか。

男女ともに楽しめることを考えて作っています。男性が朗読したほうが映える作品って多いんですよ。たとえば、シャーロック・ホームズシリーズ。女性がこれを朗読すると、なんとなく違うんですよね。男性が朗読したほうがホームズのかっこよさが際立ちます。

作品によって男性のほうがいいもの、女性のほうがいいものがあって、『朗読少女』でも、なるべく女性が朗読したほうが映える作品を選んでいるんですよ。

──今回登場するキャラクターが"執事"になったのはなぜですか。

当初は、"朗読少女"の次だから"朗読少年"や"朗読青年"にしようか? なんて話になって、高校生くらいの朗読クラブに属している男性を想定していました。それでいろいろな議論を重ねた結果、執事がいいということになったんです。

──具体的にどんなことを話し合って、"執事"に落ち着いたんでしょうか。

「朗読少女」という言葉からは、セーラー服を着ているイメージを持てますが、"朗読少年"や"朗読青年"だと、イメージがわかないよね、という話になって、具体的な絵にならなかったんですよね。しかも、周囲の声に耳を傾けると、どうやら"朗読少年"や"朗読青年"というよりも、本格的な朗読を男性の声で聴きたいという意見が多かったんです。

そこで、朗読を職業にしている人を探ってみたんですが、見当たらなかった……。だからといって"朗読サラリーマン"にしてしまって、サラリーマンが朗読します! といってもなんだかピンとこないですよね? 声優や、俳優も何か違うなと。"朗読アナウンサー"という候補もあったんですけど、それもいまいちでした。いろいろと考えて、"執事"だったらいいんじゃないかという話になったんです。

"執事"だと、何かをしてくれそうな感じがありませんか。なんでもそつなくこなしてくれそうですし、そもそも執事を雇える人はそれほどいませんから、贅沢感もありますよね。グーテンベルクの時代は貴族の館のなかで朗読を楽しむという文化があって、その時代の高級感を現代に持ってきたかったというのもあったんです。対面朗読をしてくれる格調高いキャラクターにしようということですと、"執事"が一番マッチしたんですよね。社員全員に意見を聞いて投票もしたんですが、執事が圧倒的でしたね。

キャラクターの設定と作り込み

──リリース前に『朗読執事』のキャラクターは20代男性と明かされましたが、なぜ20代にしたのでしょうか。

アニメを含んだキャラクターの設定で、30代ってそれほど多くないんですね。いたとしても、先生役であったり、主人公を導くような役割になっています。さらに年齢が上の人に朗読してもらうというのは、少し気が張るというか、そんな感じがあります。

私たちの考える執事というのは、目上の存在ではないんです。あくまでも、ユーザーさんに仕えて、距離感的なところで近しい感じのある存在ですね。半ば友人的な立ち位置にあるという。そうした微妙な距離感を考えると20代がいいのではないかと思っています。

──執事の名前などその他の設定はどうなっているんでしょうか。

名前はマーク・ブックです。母国語は日本語で、イギリス人と日本人のハーフという設定にしています。金髪で身長は180pですね。

アプリを制作していくうえで、キャラクターの作り込みの部分はとても苦労しました。名前にしても、最初は、漢字が入ったほうがいいという意見があったんですよ。マーク・東郷みたいな(笑)。でもそれってちょっときついよね、という話になって、マーク・ブックに落ち着きました。

髪の色も最初は金髪じゃなくて黒髪のほうがいいのでは? という話もありましたし、身長は高いほうがいい、線が細いほうがいい、ですとか、服装ひとつにしても、蝶ネクタイや普通のネクタイのほうがいいんじゃないか、といったことをひとつひとつ議論して、30パターンほどのなかから選びました。

顔よし、性格よし、声までいい。非の打ち所がないマーク・ブック(c)OTOBANK Inc.

コンテンツと機能は『朗読少女』とどう違う?

──『朗読執事』では具体的にどういったコンテンツが入ってくるんでしょうか。

基本的には、男性が朗読したほうが映える作品です。初回リリース作品は『羅生門』(115円)、『まだらの紐(前)』(115円)『まだらの紐(後)』(350円)『眠る森のお姫さま』(350円)となっています(本体のダウンロードは無料)。それから江戸川乱歩シリーズやそれこそ古典でも、男性が読んだほうがいいものですね。シャーロック・ホームズシリーズなんかは数パターンある翻訳本のなかから、一番いいものを選びました。

──『朗読少女』と異なる機能はありますか。

『朗読執事』の特徴としては、呼び方が変えられることがあります。「お嬢様」「おぼっちゃま」「奥様」「ご主人様」といったように選択できて、好みの設定でマーク・ブックが呼びかけてくれます。呼び方によって、話すセリフも変わるんですよ。それから、アプリを起動した後にマーク・ブックが毎日「今日の誕生花」を紹介してくれる機能があります。「今日の誕生花はバラですよ!」みたいに教えてくれるんです。そうすれば、実際に花をプレゼントすることもできますよね(笑)。

『朗読少女』にも、今日は何の日なのかを教えてくれる機能があるんですが、これを楽しみにしてくれている人が多いんですよ。「今日はコロニー落としのあった日です」なんて、ガンダムの世界の出来事を紹介したり、猫の日の2月22日なんかは、乙葉しおりが「にゃん」「にゃん」とかわいい声でセリフを発していたりして。そのときなどはTwitter上に「とにかく、今日だけはアプリを起動しろ!」なんていうツイートが溢れましたね(笑)。

それから、機能とは異なるんですが、乙葉しおりの座る椅子とマーク・ブックが座る椅子とではサイズが違う。そうしたところから計算するとマーク・ブックが朗読する部屋は天井がすごく高くて、明らかに日本の建物とは違うということもわかってもらえるかと思います。

『朗読少女』と『朗読執事』を並べて置くと両者の部屋のつくりの違いがわかりやすくなる

──『朗読少女』にはアプリに接する時間が増えると、乙葉しおりの接し方が好意的なものに変わってくる”好感度”という機能が入っていました。『朗読執事』にもそうした機能が入っていますか。

ざっくりとですが、そうした要素は入っています。けれど、『朗読少女』ほどではありません。べったりした関係にはならないということです。それがいいというのもあるかもしれませんが、執事と恋愛するのは、ちょっと背徳的な感じがしますしね(笑)

CVはこうして決まった!

──『朗読少女』では女子高生という設定上、乙葉しおりの朗読は意図してたどたどしさを出していたわけですが、今作の声に対するこだわりみたいなものはありますか?

『朗読執事』の場合は、主人のために仕えるのが執事としての仕事なので、言ってみれば朗読のプロなんですよね。だから、朗読の上手な方を選びました。誰からも嫌われない、高級感に溢れた声にしたいと考えて、アニメ「NARUTO」などに出演していた声優の近藤隆さんにお願いすることになりました。

『朗読少女』もそうですが、選考過程ではオーディションも行っています。オーディションに参加した数十名の方の中から最終的に近藤さんになったんです。徹底的に朗読の実力を見たので、近藤さんみたいな有名な声優さんにお願いすることになったのは、偶然だったんですけどね。

ちなみに、『朗読少女』に出てくる乙葉しおりは高校生なので朗読のプロではありませんが、実は最近は練習を積んで朗読が上手になってきているという設定になっています。特にライトノベルなんかは一聴の価値がありますよ。

──どういうところに惹かれたんですか。

いくら聴いていても疲れないというのが大きな理由のひとつですね。落ち着いていて、余計な癖もありません。なかには、演技っぽさが出てしまう人がいるんですけど、近藤さんはそういったものもありませんでした。朗読がすごくうまかったんですよ。

朗読って本を読むだけに見えて、実は作品の読み込みの深さだったり、キャラクターの演じわけのうまさだったり、かなりスキルのいる作業だと思うんです。

近藤さんは、どんなユーザーさんにも満足してもらえる朗読のプロ! 『羅生門』の老婆のシーンを聴いたときにびっくりしましたよ。シャーロック・ホームズもすごいんです。臨場感が生まれて、本当にどきどきします。キャラの演じわけもいいですし、本に命が吹き込まれるんです。絶対、聴いたほうがいいですよ。

──最後に今後の予定などがあれば。

名作だけではなく、話題の作品も出していく予定です。それからたとえばの話ですが、白髪の執事を出してほしいという要望が多ければ、そういったキャラクターなども検討したいと思っています。

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